\[ \renewcommand\le\leqslant \newcommand\id{\mathrm{id}} \newcommand\adef{\stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow}} \newcommand\surj\twoheadrightarrow \newcommand\incl\hookrightarrow \newcommand\gen[1]{\langle #1 \rangle} \newcommand\Set{\mathbf{Set}} \newcommand\Grp{\mathbf{Grp}} \newcommand\Abl{\mathbf{Abl}} \newcommand\op{\mathrm{op}} \newcommand\frk\mathfrak \newcommand\brk[1]{[ #1 ]} \DeclareMathOperator\Ker{Ker} \let\Im\relax \DeclareMathOperator\Im{Im} \DeclareMathOperator\Ab{Ab} \DeclareMathOperator\Coim{Coim} \DeclareMathOperator\Coker{Coker} \DeclareMathOperator\End{End} \]
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集合 \(G\) が群(group)であるとは,\(G\) 上に積(multiplication)と呼ばれる結合的な二項演算があり,単位元(identity element)が存在し,各 \(g \in G\) に対してその逆元(inverse)が定まっていることをいう.
群 \(G\) が積について可環なとき,すなわち任意の \(g, h \in G\) に対して \(g h = h g\) なるとき,\(G\) を可換群(commutative group),あるいはAbel 群(Abelian group)という.
容易に分かるように,群における単位元と逆元は一意です.そこで,特に断らない限りは,単位元を常に \(1 \in G\) と表すことにします.\(g \in G\) の逆元は \(g^{-1} \in G\) と表します. 単位元の存在から,特に \(G \neq \emptyset\) も言えます.
群 \(G\) の部分集合 \(H \subset G\) が \(G\) の部分群(subgroup)であるとは,\(H\) が \(G\) と同じ演算に関して群となること,すなわち任意の \(g, h \in H\) に対して \[ g h, \ g^{-1} \in H \] となることをいう.このとき,\(H \le G\) と書く.
\(G\) の部分群 \(H\) が正規(normal)であるとは,\(H\) が \(G\) の共役で不変であること,すなわち任意の \(g \in G\) と \(h \in H\) に対して \[ g h g^{-1} \in H \] となることをいう.このとき,\(H \vartriangleleft G\) と書く.
\(G\) が可換群ならば,\(G\) のすべての部分群は正規です.非可換群においては,部分群が正規であるとは限りません.
群の間の写像 \(\varphi \colon G \to H\) が群準同型(group homomorphism)であるとは,\(\varphi\) が \(G\) の群構造を保存すること,すなわち
となることをいう.
群準同型 \(\varphi \colon G \to H\) が群同型(group isomorphism)であるとは,群準同型 \(\psi \colon H \to G\) が存在して, \[ \psi \circ \varphi = \id_G, \quad \varphi \circ \psi = \id_H \] となることをいう.群同型 \(G \to H\) が存在するとき(従って群同型 \(H \to G\) も存在するとき),\(G\) と \(H\) は互いに群同型(group-isomorphic)であるといい,\(G \cong H\) と書く.
群準同型,群同型(group isomorphism, group-isomorphic)を単に準同型(homomorphism),同型(isomorphism, isomorphic)とも言います.
群 \(G\) とその正規部分群 \(H \vartriangleleft G\) があるとき,\(G\) 上の同値関係 \[ g \sim h \adef g^{-1} h \in H \] で割った商集合 \(G /\! \sim\) は自然に群となり, \[ G /\! \sim {}= \{ g H \mid g \in G \}, \quad g H := \{ g h \mid h \in H \} \] という形をしている.この \(G /\! \sim\) を \(G / H := G /\! \sim\) と書き,\(G\) の \(H\) による剰余群(residue group)という.
このとき,写像 \(\pi \colon G \to G / H, \ g \mapsto g H,\) は全射群準同型となる.この \(\pi\) を標準的な全射(canonical surjection)といい,\(\pi \colon G \surj G / H\) と書く.
「標準的」は,「自然な(natural)」とも言われます.つまり,「\(G\) から \(G / H\) への写像(群準同型)を作ろうと思ったときに,最も自然に考えられるもの」というキモチです.これは,後で見る圏論的な考えにも関係してきます.
群準同型 \(\varphi \colon G \to H\) に対して,\(G\) の部分集合 \[ \Ker (\varphi) := \{ g \in G \mid \varphi (g) = 1 \} = \varphi^{-1} (1) \] を \(\varphi\) の核(kernel)といい,\(H\) の部分集合 \[ \Im (\varphi) := \{ \varphi (g) \mid g \in G \} = \varphi (G) \] を \(\varphi\) の像(image)という.
\(\varphi \colon G \to H\) を群準同型とする.このとき, \[ \Ker (\varphi) \vartriangleleft G, \quad \Im (\varphi) \le H. \]
群準同型 \(\varphi \colon G \to H\) を考える.上の命題より,\(\Ker (\varphi)\) は \(G\) の正規部分群だから,その剰余群 \(G / \Ker (\varphi)\) を構成することができる.このとき, \[ G / \Ker (\varphi) \cong \Im (\varphi). \]
この定理を準同型定理(isomorphism theorem)と言います.(正確には第一準同型定理ですが.)
ここで考えるのは,群が一つ,または複数与えられたときに,新たな群を構成することです.
まず,群 \(G, H\) があるとき,その直積集合 \(G \times H\) が作れます.\(G \times H\) 上には,次のような群構造を入れるのが自然でしょう: \[ (g_1, h_1) \cdot (g_2, h_2) := (g_1 g_2, h_1 h_2) \quad (g_1, g_2 \in G, \ h_1, h_2 \in H). \]
このとき,単位元は \((1, 1) \in G \times H\),\((g, h) \in G \times H\) の逆元は \((g^{-1}, h^{-1}) \in G \times H\) です.
上のように構成された群 \(G \times H\) を,\(G\) と \(H\) の直積群(direct product group)と呼ぶ.
以下のように定まる写像
は全射群準同型である.これらを標準的な射影(canonical projections)といい,\(\pi_1 \colon G \times H \surj G\) や \(\pi_2 \colon G \times H \surj H\) と書く.
\(G\) は \(G \times H\) の正規部分群 \(G' := \{ (g, 1) \in G \times H \mid g \in G \}\) と群同型になります.そこで,\(G\) と \(G'\) を同一視してみます.\(H\) も同様に,\(H' := \{ (1, h) \in G \times H \mid h \in H \}\) と同一視します.すると,標準的な射影 \(\pi_1 \colon G \times H \surj G'\) は,標準的な全射 \(\pi \colon G \times H \surj (G \times H) / H'\) に他ならないことが分かります.
\(G\) を群とし,\(S \subset G\) をその(空でも構わない)部分集合とする.このとき,\(S\) を含むような \(G\) の最小の部分群 \(\gen{S}_G \le G\) が存在する.すなわち,\(G\) の部分群 \(\gen{S}_G\) であって,\(S \subset \gen{S}_G\) かつ,\(S \subset H \le G\) なる任意の部分群 \(H\) に対して \(\gen{S}_G \subset H\) となるようなものが存在する.
\[ \mathcal{S} := \{ H \le G \mid S \subset H \} \] とおいて,\(\mathcal{S}\) に Zorn の補題を適用すれば,極小元 \(H \in \mathcal{S}\) が存在することが分かる.これが最小元であることを示すために,\(H' \in \mathcal{S}\) を任意に取る.もし \(H \not\subset H'\) であれば,\(H \cap H' \subsetneq H\) である.一方,\(H, H' \in \mathcal{S}\) より,\(H \cap H' \in \mathcal{S}\) である(実際,\(H\) と \(H'\) はともに部分群であるから \(H \cap H' \le G\).また,\(S \subset H, H'\) より,\(S \subset H \cap H'\).よって \(H \cap H' \in \mathcal{S}\).)が,これは \(H\) の極小性に矛盾.よって \(H \subset H'\) であるから,\(H\) は \(\mathcal{S}\) の最小元であることが言えた.
上の補題によって存在が保証された部分群 \(\gen{S}_G\) を\(S\) によって生成された部分群(subgroup generated by \(S\))という.
\(S = \emptyset\) のときは,\(\gen{S}_G = \{ 1 \}\) です.そうでないときは, \[ \gen{S}_G = \{ s_1 s_2 \dotsm s_n \mid n \in \mathbb{Z}_{\gt 0}, \ s_i \in S \ \text{or} \ s_i^{-1} \in S \ (1 \le i \le n) \} \cup \{ 1 \} \] という形をしています.
次に,自由群と群の直和について見てみましょう.
集合 \(S\) に対して,\(S\) 上の語(words)全体からなる集合 \[ \gen{S} = \{ s_1 s_2 \dotsm s_n \mid n \in \mathbb{Z}_{\gt 0}, \ s_i \in S \ \text{or} \ s_i^{-1} \in S \ (1 \le i \le n) \} \cup \{ 1 \} \] を \(S\) によって生成された自由群(free group generated by \(S\)),あるいは \(S\) を基底とする自由群(free group with basis \(S\))という.
群 \(G\) と \(H\) の直和(direct sum)とは, \[ G \oplus H := \{ x_1 x_2 \dotsm x_n \mid n \in \mathbb{Z}_{\gt 0}, \ x_i \in G \ \text{or} \ x_i \in H \ (1 \le i \le n) \} \cup \{ 1 \} \] という群のことである.
以下のように定まる写像
は単射群準同型である.これらを標準的な入射(canonical injections)といい,\(\iota_1 \colon G \incl G \oplus H\) や \(\iota_2 \colon H \incl G \oplus H\) と書く.
最後に,交換子群と可換化について復習します.
群 \(G\) の元 \(g, h \in G\) に対して \[ [g, h] := g h g^{-1} h^{-1} \] とおき,\(g\) と \(h\) の交換子(commutator)という.
\(G\) の空でない部分集合 \(S, T \subset G\) に対して \[ [S, T] := \gen{\{ [s, t] \mid s \in S, t \in T \}}_G \] とおくと,特に \([G, G]\) は \(G\) の正規部分群となる.この \([G, G] \vartriangleleft G\) を \(G\) の交換子群(commutator group)といい,その剰余群 \(\Ab G := G / [G, G]\) を \(G\) のAbel 化(Abelianization)という.
その名前から想像できるように,\(\Ab G\) は可換群になります.さらに,\(G\) が可換群のときは \([G, G] = \{ 1 \}\) なので,\(G \cong \Ab G\) となります.大雑把に言えば,\([G, G]\) は \(G\) の「非可換度合」を測ったもので,\(G / [G, G]\) はその「非可換な部分」をすべて潰したもの,というイメージです.
以上で群論からの準備は終わりです.いよいよ圏論を考えていきましょう.